豪華な客人が集まる結婚パーティーで花嫁のマリアンは幸せの絶頂にいた。
そんな中、激化する抗議運動が暴動化し、マリアンの家にも暴徒たちが押し寄せる。
緑色に染まるフロントガラス、恐怖に慄く赤いスーツを着たヒロインの顔。
そんなビジュアルを観た私はてっきり緑色の液体がウィルスか何かで、それによって凶暴化した人間が人々を襲うゾンビホラー作品だと思って再生したのですけどね。
いーーやおもてたんと違う!
とんでもなーーーーく重い、シビアで生々しいスリラーだった!
はっきり言おう、胸糞だ!
だけど、これがとんでもない良作なのです。
貧富の差が激しく人種差別問題も根深いメキシコが舞台なんだけれども、包み隠さずその闇を描き切っているのが清々しいくらい。包み隠さないって言葉が生やさしいくらいに、残酷(視覚的というよりは精神的に)で救いようのない描写の連続にショックを受け人もいるでしょう。
あっけなく命を落とす人々、善良な人が救われない世界、クーデターにあっても結局は人を支配し続ける権力者たち・・・。
衝撃のラストも「どうかフィクションであってくれ」と願いつつ、きっとこのどうしようもない泥沼は世界のどこかで現実に起こっているんだろうと思えてしまう。それはぬるりと日常を切り取るような独特の長回しと誰にも感情移入できない良い意味で上部だけの人物描写のおかげかもしれない。
まるでニュース映像を見ているかのような、名前も知らないクーデターの犠牲者に怒りと悲しみが湧いてくる、あの感覚。
すっごく胸糞な救いようのない作品なんだけど、画力と説得力ある俳優陣のおかげで一つの作品として見応えのあるものになっています。
人によってはダメージがすごいと思うけど、これは観るべき作品だな、と。
どうかパワーが有り余っている時に観てください。
- ●『ニューオーダー』(2022年)
- 監督ミシェル・フランコ
- 出演ナイアン・ゴンザレス・ノルビンド / ディエゴ・ボネータ / モニカ・デル・カルメン