2022年6月26日

【vol.6】蝶の羽ばたき/清水宏香

連載概要

劇団まんまる女優、フリーアナウンサー、司会、声優講師など様々な活動を行っている清水宏香さんによる連載。現場で活躍する女優ならではの情報や観劇レポートなど、『演劇』に関する情報を発信してくれます。

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【vol.6】町の羽ばたき

劇団まんまるには、現在14名の劇団員が所属していますが、今回はその中でも最年少劇団員をご紹介しましょう!

20歳の青年、しんさく

もうピッチピチです、お肌とかまるで桃です桃、赤ちゃんの頃から細胞そのままなんちゃう?

知らない事が多すぎて私らの冗談を全部真に受けます、悪い人には気を付けろよ!

ちなみに劇団まんまるに入ったきっかけお母さんが私のラジオを聴いた事だったそうです。お母さんは言うまでもなく、私と同世代です。

そんな20歳のしんさくは将来、映画に出る事を目標にしています。

映画が大好きで、特にアクション映画はガンアクションの真似をして動画撮るくらい好き。彼が憧れる映画俳優になるためには当然、演技も上手くならないといけない。

ということで現在、劇団まんまるで修行中なのです。

先日はマイム(パントマイム)の練習や、台本の読み稽古などを行いました。

終わって帰ろうとすると、しんさくは

「自分はもう少し残って頑張ります!」

彼は普段、朝早い力仕事をしています。稽古中どうしても眠気に襲われて、半分目が閉じそうな時もあります。

そんな彼が、居残り稽古をしたいと言った。

お母さんはもう感無量やで。

無理はするなよ、と微笑みつつ稽古場のドアを閉めたのでした。

しんさくが生まれた頃、私は21歳でした。

すでに高校演劇で経験を積んで、少し天狗になっていた時代だったのですが、そんな折に声を掛けられ入った劇団で、泣くほど悔しい思いをしました。

私は喋ることにおいては少しばかり器用でしたので、ペラペラと台詞を言う事ができます。しかし、それと「演じる」という事には、大きな隔たりがあるのです。

文字で説明するのはいささか難しいのですが…

人が何か言葉を吐く時、呼吸、温度、強弱、間合い、というのを無意識に調節しています。でも、書いてある文字を読む時それらが崩れてたちまち「嘘」になってしまう。

台詞は当然誰かが書いた言葉を喋るわけなので噓ではあるのですが、その嘘を嘘じゃなくしないと、当然お客さんは「嘘っぽいなあ」と感じてしまうのです。

私は来る日も来る日も台本読みで「えっ?」という台詞ばかり練習していました。(今でも思いますけど、「えっ」て台詞は難しいんですよ)

ある夏の暑い日。どこかのタイミングで、私の中の「台詞を言う気負い」みたいなのが少し取れて、とても自然に「えっ」と口から出たのです。その時は周りの皆も当たりくじが出たみたいに喜んでくれました。

それを機に憑き物が取れたかのようにメキメキと演技が上達し…といけば良かったのですが、そう甘くはないですね、その後も何度も何度もつまずきました

でも、この経験があったからこそ今も演劇を続けていることは、間違いありません。

演技をする事は本当に面白い。自分の心も、周りの心にも敏感になる。少しの事で大きな変化が生まれていく。

まさにバタフライエフェクト。

しんさくもいつか、蛹から蝶になり、誰かの心に風を起こす日が来るのでしょうか。

その日まで、私も演劇を続けていられたらいいな。

劇団まんまる
  • 記事を書いた人
    清水宏香
徳島県出身・在住。劇団まんまる女優、フリーアナウンサー、司会、声優講師など様々な活動を行っている。AWAPでは、現場で活躍する女優ならではの情報や観劇レポートなど、『演劇』に関する情報を発信。

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